人間の寝床の起源について考えてみましょう。人間は霊長類に分類されますが、生物学的に似ている他の種はどのような場所で休息をとっているのでしょうか。
猿の仲間には、巣を作るものと作らないものがいます。早速、一緒に見ていきましょう。
寝床と知性
ヒト科の認知能力は寝床を作ったことで促され、地上で眠るようになり人類への進化につながったという説があります。身体的な防衛手段を多く持たないヒト科は、生存するためのスキルや知恵を発達させてゆきました。
霊長類(霊長目)は猿の仲間ですが、肉食哺乳類と比較すると牙や爪が発達していません。襲われたら対抗するのは難しく餌食になる可能性が高いです。そのため、樹上で暮らしたり、特に地上では集団で助け合って暮らしてきました。
ヒト科の寝床
ヒト属(ホモ属)、チンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン亜科からなるヒト科では、日中や夜間に休むために寝床を作ります。営巣行動は生まれもった本能というよりは、周囲の個体から学習していると見られています。
人類(ヒト属):
地上に降りた初期の人類は洞窟などで暮らし、やがて小屋といった建造物が作られました。しかし、すぐに屋根が登場したわけではなく、風を凌ぐ程度のものでした。寝床の素材には粘土、石、木材など様々なものが用いられました。古代の人類は約4万年前までこのような簡易的な構造の家屋で寝ていた可能性があります。
チンパンジー:
体重が雌は47 kg、雄は60 kgになります。寿命は約30年です。ナックルウォーキングという四足歩行を行います。アフリカの熱帯雨林、山地林、サバンナ等に生息し、雑食で葉、果実、昆虫などいろいろなものを食べます。
ヒト属と同じ祖先から、約700万年前にチンパンジー亜族の系統に分化したと考えられています。
チンパンジーは夜に眠る寝床を高さ1~45メートルの樹上に作ります。安定感がある枝で基礎を作り、その上を柔らかい葉などで覆って心地よくします。それ以外にも、昼寝用に地上や樹上に簡易的な寝床を作ることもあります。地域によっては、夜に眠る寝床も地上に作る場合があります。
チンパンジーは集団で暮らしており、複数の寝床が近くに集中していることもあります。雄は自分が生まれた群れに留まり、雌は成熟すると別の群れに移る傾向があります。多いと100頭以上の雌雄が、集まったり離散したりしながら群れを作って生活しています。愛嬌がある風貌ですが、獰猛な一面もあり個体同士で抗争が起こることがあります。
ゴリラ:
霊長類で最大のゴリラは、体重が雌は100 kg、雄は180 kgにもなります。生まれたばかりの赤ちゃんは、1.8 kgで人間より少し小さいくらいです。寿命は約30年です。アフリカの密林やジャングルに生息し、ナックルウォーキングという四足歩行を行います。獰猛な印象がありますが、繁殖期などを除き通常は、とても大人しい性格です。ヒョウが天敵です。
ヒト属と同じ祖先から、約1000万年前にゴリラ属の系統に分化したと考えられています。
支配的な1頭の雄と雌の群れで暮らしている傾向があります。しかし、ゴリラの社会は非常に多様で、ボス以外に複数のオスとメスがいる群れやオスだけの群れ、オスが単独で生活している場合もあります。群れは一般的に5~10頭ですが、2~50頭にもなることがあり幅があります。
昼行性で、寝床は地上から2~3メートルの高さの樹上に枝や葉を絡ませるようにして作る傾向があります。寝床の大きさは大体30~150 cmです。体重の重いゴリラを支えられるように、しっかりとした構造になっています。ゴリラは、12時間寝続けることもあります。
なお、地面に草や葉を集めて寝床を作る場合もあります。日中に少し休憩するためのものは簡易的な構造ですが、夜に就寝する寝床は頑丈な作りになっています。寝床は、一頭につき一つが基本です。ただし、3歳くらいまでは母親と同じ巣で過ごします。雌と子供は樹上で休みますが、日中は地上にいることが多いです。雄は、概ね地上にいます。
ゴリラは移動生活のため、一度使った寝床を再び使うことはありません。つまり毎日、寝床作りをしているということです。結果的に、いつも清潔な寝床で寝ていることになります。
オランウータン:
体重が雌は50 kg、雄は90 kgにもなります。寿命は約30年です。四足歩行ですが、ナックルウォーキングはしません。雑食で、葉、昆虫、小型哺乳類などを食べます。スマトラトラ、ウンピョウ、ドール、クロコダイルなどが天敵です。
ヒト属と同じ祖先から、約1400万年前にオランウータン亜科の系統に分化したと考えられています。
インドネシアやマレーシアの熱帯に生息しています。母親と赤ちゃんは一緒に暮らしますが、それ以外の個体は単独で行動することがほとんどです。しかし、森のどのあたりにお互いがいるかというのは意識していて、適度な距離を保っていることのようです。同じ場所に多くの個体がいると、一個体が得られる食料資源が限られるからだと考えられています。事実として餌が豊富な時期や地域では、複数の個体が同じ木で果実を食べている光景が見られます。
オランウータンは、ほぼ完全な樹上生活をしています。前肢は後肢の1.5倍もあり木登りに適応しています。
オランウータンの母子は、人間を除いた霊長類で最長となる7年前後を一緒に過ごします。そして妹・弟が生まれる頃には、独立して生活するようになります。
オランウータンは、昼用と夜用で別々の寝床を作ります。子供のオランウータンは、母親が構造を作るのを見て寝床の作り方を学習します。生後6カ月くらいから練習を始めて、3歳頃までに熟練した技術を獲得し、母親を離れて自分の寝床を作るようになります。
オランウータンは、枝を引っ張り組み合わせて寝床の基礎にします。その上に小さな葉の茂った枝を集めて柔らかくします。そこに枝を編み込んで強度を高めます。そして葉の付いた枝を集めて枕にします。また、大きな葉が付いた枝を掛け布団にすることもあります。寝床の上に屋根を作ったり、もう一つ寝床を作って二段ベッドにしたりすることもあります。オランウータンの寝床は、驚くほど多機能です。
原猿類の巣
原猿類の仲間には、巣を作るものと作らないものがいます。
ヒト科が寝床づくりを学習するのとは異なり、原猿類は繁殖などのために本能的に巣を作ります。
マダガスカル島に生息するキツネザルの仲間のうち、ネズミキツネザルやオオネズミキツネザルといった小型種は出産前に雌が葉を集めて巣を作ります。巣は子供を外敵から守るのが主な目的です。敷き詰められた葉は体温調節の役割も果たします。繁殖期の雄は、同時期に多い場合は7頭の雌の巣に出入りしていることが分かっています。
ネズミキツネザルの仲間のなかには、雌のボスを中心にした約15頭の群れで、主に樹上生活をしているものがいます。夜行性で日中は高い樹上の巣で眠り、夜に昆虫や花、果実等を食べます。乾季には、雌は木の穴の中で約半年間も休眠し尾と後肢に蓄えた脂肪でしのぎます。
エリマキキツネザルは身近にある枝、葉、蔓などで巣を作り、自分の体毛を使うこともあります。昼行性で2~5頭、多い時には16頭の群れで行動します。2頭を出産後に母親は巣に赤ちゃんを置いたまま外出し餌を食べますが、生後1~2週間すると一緒に移動するようになります。しかし、母親が餌を食べている時は樹上に赤ちゃんが残されるため誤って落下することも多く、生後3カ月の生存確率は約3分の1です。
キツネザルの仲間のうち、ベローシファカやワオキツネザルといった大型の種では巣は作らず、子供は母親の体に抱きついて過ごします。
マダガスカルに生息するアイアイは、体重が2~3 kgで出生時はわずか0.1 kgです。夜行性で、7~20メートルの高さの樹上に 枝や蔓で作った楕円形の巣で日中は休みます。巣は頻繁に変えて新しく作り直します。空き家となった巣に、別のアイアイが棲み着くことがあります。8頭のアイアイが2年間に100カ所の異なる巣を作った、という調査結果もあります。
ガラゴ属では母親は2頭を産み、赤ちゃんを巣や木の洞に入れて葉で隠し、夜間に外出し餌を食べます。ガラゴ属の種によっては日中に昼寝する巣を複数の雌で共用し、時には雄もやってきます。
巣は効率的
霊長類全体を見渡すと、巣を作らない種は常に子供と一緒にいて育児により大きな労力を要することを示す研究があります。結果として、巣を作る種より繁殖ペースが遅くなります。
長い年月の間に霊長類の異なる種が、寝床について様々な習性をもったり学習を行ったりしてきたようです。
そして現在に生きる私たち人間にとって、家や寝床はなくてはならないものになっています。
日本の伝統社会でベッドが普及しなかった背景

布団とベッドの違いとは? 日本と西洋の寝具の比較

布団とは? 自由自在に折り畳める不思議な寝具

掻巻とは? 日本の寝具文化の源流

筵とは? 太古の昔から伝わる敷物

著者:長田拓也 Takuya Nagata. Amazon Profile
Follow @nagatackle小説作家、クリエーター。英国立大学UCAを卒業。卒業論文では、日本のミニマリズムについて論じた。エコロジーやライフスタイル等、社会の発展に寄与するアート・ムーブメント『MINIRISM』(ミニリズム)の創設者。後にナレッジハブ「The Minimalist」(ザ・ミニマリスト)をオープン。
かつてブラジルへサッカー留学し、リオデジャネイロにあるCFZ do Rio(Centro de Futebol Zico Sociedade Esportiva)でトレーニングに打ち込む。日本屈指のフットボールクラブ、浦和レッズ(浦和レッドダイヤモンズ)でサッカーを志し、欧州遠征。若くして引退し、単身イングランドに渡った。スペイン等、欧州各地でジャーナリスト、フットボールコーチ、コンサルタント等、キャリアを積む。ダイバーシティと平等な社会参加の精神を促進する世界初のコンペティティヴな混合フットボール「プロプルシヴ・フットボール」(プロボール)の創設者。
クリエーティヴ系やテクノロジー畑にも通じる。スペース カルチャー & エンターテインメント ハブ『The Space-Timer 0』をローンチ。
https://www.amazon.co.jp/-/e/B08Q4JPWRN
https://x.com/nagatackle
https://www.instagram.com/nagatackle
https://www.facebook.com/takuya.nagata.794
https://www.linkedin.com/in/takuya-nagata-5730b069


