安土桃山時代(1573年~1603年)の頃に生まれた桃山茶陶は独特の歪んだ形状をしており、濁った色使いや渋い質感が好まれました。これは同じ時代を生きた千利休が志向していた「侘び寂び」の不完全性と見事に合致しているのです。
桃山茶陶の一つである美濃焼のなかでも、茶人の古田織部による織部様式の陶器は特に有名です。篦目と歪みが際立つものには信楽焼や備前焼、伊賀焼などがあります。他にも白釉が特徴的な志野焼や独特な文様の唐津焼も知られています。
当時「桃山茶陶」は流行となり、京都三条にある瀬戸物屋町が需要を牽引したと考えられています。桃山茶陶が生まれた中世に「桃山茶陶」という呼称は確認されておらず、後世の研究で名付けられたものです。
この時代、中国生まれの唐物から日本風の和物へ、価値観が移り変わろうとしていました。
安土桃山時代は各地の武将が群雄割拠し、しのぎを削る戦国時代(1573年~1603年)の次の時代。日本が乱世から平定された世に移り変わろうとしていた時です。戦国の世では、時の支配者たちは、功績を収めた家臣に論功行賞で褒美として領土を与えました。しかし、日本全土の統一が近づくにつれて、新たに獲得できる領土がなくなっていきました。
物質的な価値(領土)の上限が見えてきた時に、精神的な価値や文化的な価値を創り出すことで、武将たちは活路を見出そうとしたのです。そこで興隆したのが桃山美術でした。武士の間で、希少な茶器の価値がみるみる高まってゆきました。
いつの時代も、社会が平和になると経済や文化が栄えるものです。安土桃山時代は天下統一が近づき、日本全国で経済活動が盛んになり豪商が台頭し文化を後押ししました。日本様式の美術が大きく花開き、この時代の文化は「桃山文化」(安土桃山文化)と呼ばれます。
安土桃山時代はポルトガル人により、欧州文化が入ってきた頃で、琉球や朝鮮との交流もあり、多様な文化が日本独自の文化形成に影響したことが考えられます。長く続いた鎖国が行われる前のことです。
キリスト教に寛容な一方で、日本の伝統的な宗教の権威は衰退。現世主義的な思想が広がり、中世から近世への脱皮の過渡期を迎えていました。ヨーロッパの歴史で例えるならば、ルネサンスのようなものであったのではないでしょうか。
「桃山文化」は、伝統的な王朝文化や室町時代(1336年~1573年)の東山文化の要素が残る一方で、勢いを増した町人文化や支配層である武家文化があいまりました。この頃になると、茶の湯は一部の武士や大商人だけではなく、広く町人にも普及しました。
綺羅びやかな「桃山文化」のなかにあり、粗相の美を追求した草庵の茶室は、特異な存在といえます。このように「桃山文化」は複合的な要素がからみあいながら形成されました。
安土桃山時代には茶筅髷も流行りましたが、織田信長と豊臣秀吉が支配した約20数年の短命で幕を閉じました。次の江戸時代は260数年という長きにわたり泰平の世が続き、庶民文化は全盛期を迎えました。このように日本独自の文化を萌芽させる礎となったのが「桃山文化」なのです。
茶の湯は、ごく一部の上流階級の嗜みから、思想を体現する茶道へと昇華し、広く社会全体に普及してゆきました。
今日の社会では、開発途上国の人々が物質的な豊かさを渇望するのに対して、すでに物質的に満たされている先進国が精神的な豊かさを求める傾向があります。時代は違えど、物質的な価値観から精神的な価値観への移行という共通点を見出すことができるでしょう。
著者:長田拓也 Takuya Nagata. Amazon Profile
Follow @nagatackle小説作家、クリエーター。英国立大学UCAを卒業。卒業論文では、日本のミニマリズムについて論じた。エコロジーやライフスタイル等、社会の発展に寄与するアート・ムーブメント『MINIЯISM』(ミニリズム)の創設者。欧州各地でライターとして様々な分野で活動し、後にナレッジハブ「The Minimalist」(ザ・ミニマリスト)をローンチ。
かつてブラジルへサッカー留学し、リオデジャネイロにあるCFZ do Rio(Centro de Futebol Zico Sociedade Esportiva)でトレーニングに打ち込む。日本屈指のフットボールクラブ、浦和レッズ(浦和レッドダイヤモンズ)でサッカーを志し、欧州遠征。若くして引退し、単身イングランドに渡った。スペイン等、欧州各地でジャーナリスト、フットボールコーチ、コンサルタント等、キャリアを積む。クリエーティヴ系やテクノロジー畑にも通じる。ダイバーシティと平等な社会参加の精神を促進する世界初のコンペティティヴな混合フットボール「プロプルシヴ・フットボール」(プロボール)の創設者。
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