隠れ家としての茶室

隠れ家としての茶室 デザイン

日本の伝統建築は開放的な構造が特徴ですが、茶室には窓もあまりなく非常に小さな空間です。千利休が造った茶室である待庵は二畳で、天井の高さは約180cm。ですので大体2メートルかそれ以下の立方体の大きさです。

隠れ家

茶室にいるとなぜ安らぐのでしょうか。それは、小さく閉ざされて薄暗い空間だからでしょう。

茶室は、動物が本能的に落ち着く隠れ家の特徴を多く備えています。

哺乳類の巣

人間は哺乳類ですが、他の哺乳類の棲みかを例に挙げてみましょう。

身近な動物では、犬が小屋の中で休憩しているのをよく見かけます。犬の祖先である狼のメスは、繁殖期になると土の斜面などに巣穴を掘って、そこで出産します。

熊は洞穴の中で長い冬眠の時間を過ごし、出産も巣の中です。

シマリスは主に地面に深い穴を掘り、その中で暮らします。ニホンリスは樹上に小枝を球状に集めた巣を作ります。もしくは木に丁度よいウロ(空洞)があれば、その中に巣を作ることもあります。

ウサギは主に穴に棲み、外出する際は子供たちを隠すために入り口を塞ぎます。アナウサギは、入り口がいくつもある複雑に入り組んだワーレンと呼ばれる巣穴を掘ります。そこで複数の個体が暮らし繁殖します。大規模なものでは総延長が約50メートル、入り口は50カ所以上になります。早朝と夕方に穴から出て近くで草をはむと、またすぐに巣穴に戻って身を守ります。

ペットのウサギでも突然、日中に見通しのよい荒野に連れていって放すと不安そうに走り回り隠れられる場所を探します。猛禽類や肉食獣から丸見えの状態で身の危険を感じるからです。人間にも広場恐怖症があるのは、この名残かもしれません。

カワウソは広大な縄張りに複数の寝屋があります。寝屋は水辺の岩といった物陰に草を敷き詰めたものです。そしてメスは水辺に巣穴を掘り、その中で出産します。

カモノハシは河川や湖の土手に洞穴を掘って巣にします。巣の入り口は、植物で見えにくくなっていたり、水中にあったりします。

ビーバーも水辺に巣を作ります。岸辺に巣穴を掘ることもあれば、小枝で小屋をこしらえることもあります。その立地条件は驚きで、自ら造ったダムで水をせき止めた水のど真ん中にあります。そして、入り口は水で覆われているため、水に潜って進まないと奥の洞穴にたどり着きません。この仕組みは絶妙で、天敵である多くの肉食獣の侵入を防げます。

様々な動物の巣

哺乳類以外の動物の巣も見てみましょう。

キツツキが木に穴を開けるのはよく知られています。キツツキの一種であるアカゲラは子育てや休息をとるために硬く長いクチバシで穴を開けます。

カワセミは河川の周辺などにある土の壁に小さな穴を掘ってその中に身を隠します。絶壁なので、多くの肉食獣は近づくことが出来ません。

十脚甲殻類の一種であるヤドカリは体部分が柔らかく右側にねじれていて、巻き貝の殻の中に収まりやすくなっています。ヤドカリは体にピッタリの貝殻の中に入り身を守ります。これは、まるで鎧をまとうようなもの。あるいは移動式住居のようです。体の成長に伴い貝殻を替えていきます。海底に無数ある貝殻に入っては出てを繰り返して試着します。すでにあるものの中に入るだけなので、引っ越しも容易です。

ミノムシ(ミノガの幼虫)は、吐き出す絹糸で周辺にある葉や枝などを巧みに継ぎ合わせ移動可能な巣をこしらえて、その中で暮らします。オオミノガの幼虫は巣の中で寒さをしのいで越冬し、その蓑の中で春頃にサナギになり、その約1カ月後に成虫になります。そして、オスはメスを求めて羽ばたいていきます。驚きなのは、メスの成虫は蛾にもかかわらず翅と脚が退化しており、ほとんど移動手段を持たないことです。メスはフェロモンを出して蓑の中でオスを待ち続け、蓑の中で産卵します。つまり一生涯のほとんどの時間を蓑の中で過ごすのです。

人間の目に見えない原生動物にも、巣を作る種あるのは驚きです。アメーバのなかには、自らの周りに細胞外物質を集めて巣を作るものがいます。

約5億年前に出現した海洋性動物プランクトンである放散虫(レディオラリア)は、シリカ(二酸化ケイ素)でガラスのように硬い外殻を形成します。その外殻のフォルムはまるで未来の鎧兜か城郭のようです。放散虫は、その殻に空いた隙間から仮足を放射状に出して水の中で揺られています。

生物は海で誕生したという説があります。多細胞生物だけでなく太古の昔から生きている単細胞生物も巣を作るのです。

哺乳類はもちろん、多くの動物たちが小さく閉鎖された空間を棲みかとしています。危険がいっぱいある自然界での自己防衛手段として、これは理にかなったことです。この本能の名残が人間にないと考えるほうが不自然でしょう。

茶室に住んだ人間

様々な動物の巣の例を挙げてきましたが、このような背景を踏まえて改めて茶室と向かい合うと、おのずと巣に見えてくることでしょう。

茶室は日常生活を送る住居ではなく、特別な場所として考え出された建築です。住居に併設される場合も、可能な限り隔離された配置にします。

しかし、その非日常的な場所である茶室に実際に住んだ歴史上の人物もいます。

現役時代に多忙な生活を送った大名で、千利休に茶道を学んだ茶人でもある織田長益(通称、織田有楽、織田有楽斎とも)は、茶室「如庵」に隠居しました。

著者:長田拓也 Takuya Nagata. Amazon Profile

小説作家、クリエーター。英国立大学UCAを卒業。卒業論文では、日本のミニマリズムについて論じた。エコロジーやライフスタイル等、社会の発展に寄与するアート・ムーブメント『MINIЯISM』(ミニリズム)の創設者。後にナレッジハブ「The Minimalist」(ザ・ミニマリスト)をオープン。

かつてブラジルへサッカー留学し、リオデジャネイロにあるCFZ do Rio(Centro de Futebol Zico Sociedade Esportiva)でトレーニングに打ち込む。日本屈指のフットボールクラブ、浦和レッズ(浦和レッドダイヤモンズ)でサッカーを志し、欧州遠征。若くして引退し、単身イングランドに渡った。スペイン等、欧州各地でジャーナリスト、フットボールコーチ、コンサルタント等、キャリアを積む。ダイバーシティと平等な社会参加の精神を促進する世界初のコンペティティヴな混合フットボール「プロプルシヴ・フットボール」(プロボール)の創設者。

クリエーティヴ系やテクノロジー畑にも通じる。スペース カルチャー & エンターテインメント ハブ『The Space-Timer 0』をローンチ。
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