What is Furoshiki?
風呂敷とは?
普段何気なく生活していて「風呂敷とは何か?」と考えることはあるでしょうか。日本の伝統文化で、特に目新しいものではないですが、このいたってシンプルな平たい正方形の布には、非常に沢山の物語があります。シンプルなものの方が、解釈が広くなり、実は奥が深いものなのです。
「たかが風呂敷、されど風呂敷」
風呂敷を既知の方でも、初めての方でも知って得する風呂敷の全てを語り尽くします。
目次
風呂敷の歴史
風呂敷の技術
風呂敷のデザイン
風呂敷 & 環境への影響
ツールとしての風呂敷プラットフォーム
風呂敷 & 日本
風呂敷の使い方
風呂敷の現在と将来
風呂敷 x スペイン
著者:
風呂敷の歴史:
Furoshiki History
風呂敷の歴史
「日本の風呂敷」の歴史は、1200年以上前に遡ります。
縄文時代から日本で麻が使われていました。布が作られるようになり物を包む行為は、必然的に行われていたことが考えられますが、これだけ多様な使い方を発達させた日本の風呂敷は非常に稀です。
風呂敷の起源:
現存する最古の風呂敷は、8世紀のもので、正倉院(奈良)にあります。
正倉院御物には、「つつみ」という意味の「裹」や「幌」という文字が記されています。
その後、平安時代の和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)には「ころもつつみ」(衣包)とあります。
平安時代の有職故実書、まさすけしょうぞくしょう(満佐須計装束抄・雅亮装束抄)には「ひらつつみ」(平裹・平包)という表現が出てきます。
12世紀の「伴大納言絵巻模写」には、ひらつつみ(風呂敷)を使う様子が見受けられます。
室町時代、武士が入浴時に衣を包み、その上で衣をつけたことから「風呂敷」になったという説があります。
1616年に徳川家康の「駿府文物御道具帳」に「こくら木綿風呂敷」と記されているのが、現在知られている最古のものです。一般的な呼称が「平包み」から「風呂敷」になったのは、1700年代頃です。
近代以降の盛衰:
明治時代になると殖産興業が国策となり、技術革新で生産力が増大しました。合成染料も利用されるようになり、大正から昭和にかけては、化学繊維が普及しました。
戦後は、生活様式が欧米化し、風呂敷よりも鞄を使うことが一般的となりました。買い物客へ無料でビニール袋が提供され、風呂敷は使用される機会が減りました。
そして冠婚葬祭の引出物などの贈答品としての需要が目立つようになりました。
近年、環境意識の高まりから、レジ袋の代替品として風呂敷の価値が見直されています。
風呂敷の技術:
Furoshiki Tech
風呂敷の技術
風呂敷の素材:
伝統的に絹と綿でした。レーヨンやポリエステル、ナイロンやアセテートなどの化学繊維、天然繊維と化学繊維を組み合わせた半合成繊維も使われています。
絹:
伝統的な製法としては「ちりめん」(縮緬)や「つむぎ」(紬)があります。
ちりめん(縮緬)の表面の質感とそのしなやかさは、高級感があります。正絹で織るちりめん(縮緬)は、厚手の「大シボちりめん」と薄手の「絽ちりめん」に分けられます。
つむぎ(紬)は、紬糸で平織りし、光沢はさほどなく、耐久性に優れています。
薄手の絹織物に「絽」があります。
綿:
綿は手入れがしやすく、最も一般的な風呂敷の素材です。製法はシャンタン綿、綿ローン、天山綿、ブロード綿、西陣織など様々です。
化学繊維:
レーヨンは、水を含むと絹の様に縮みます。
ポリエステルは、耐久性があり丈夫でシワになりにくい素材です。
ナイロンも丈夫で軽く、吸水性が低く速乾性があります。
アセテートは半合成繊維で、絹の様な質感で、熱や摩擦や水に弱いです。
染め:
染料は、植物などから取り出した天然染料と化学染料があります。
藍染め:
深い青の色合いが美しく、タデ藍を染料に使います。
絞り染め:
しぼり(絞り染め)は、くくり(括り)により、絞りのシワで模様を浮かび上がらせます。
引き染め:
刷毛により染料を生地に浸透させます。染み込まない部分を定める方法には「型糊置き」と「筒引き」があります。
印染め:
生地上に印(しるし)を入れる染色方法です。
プリンティング:
現在ではデジタルインクジェットプリントや昇華プリントで、データファイルを基にプリントすることが可能です。
デジタルプリント:
デジタルインクジェットは、天然繊維と化学繊維の両方に使用が可能です。
昇華プリント:
昇華プリントは、インクジェットでプリントした転写紙を生地とあわせて熱ローラーで過熱し昇華転写する技法です。
顔料プリント:
顔料プリントは、表面に顔料で絵柄をのせ、厳密には染めとは異なります。
縫製:
風呂敷は正方形で、三つ折り縫製で仕上げます。
風呂敷のデザイン:
Furoshiki Design
風呂敷のデザイン
風呂敷の代表的なデザインは、「唐草模様」でしょう。古代ギリシャからシルクロードを経て奈良時代に日本に伝わりました。唐草(ウマゴヤシ)の複数のつる(蔓)が絡み合い、子孫繁栄などの意味があります。
一般的な風呂敷の模様:
「青海波」(せいがいは)は、古代ペルシャ発祥で飛鳥時代に日本に伝来しました。
「麻の葉」は、その名の通り、麻の葉を形とった幾何学模様で、縁起の良いものとされ、平安時代には、一般的な柄でした。
「矢絣」(やがすり)は、矢羽根をかたどったもので、矢は射ると戻ってこないことから、婚礼時に縁起物とされました。
その他の伝統的な柄には「桜」「紅葉」「扇」「籠目」「七宝」「流水」「雲」「霞」「亀甲」「松」「竹」などがあります。
また、風呂敷に名家は家紋を入れ、商人は屋号紋を入れました。
模様構図:
風呂敷は、織られた生地の「全体」の模様を活かすこともありますし、様々な構図も用いられます。
「隅付け」は、四隅の一箇所、または複数箇所に文様を入れたものです。四つ角に模様が入っているものは、「四隅取り」といい、対角線で三角形に分けて、異なる色を入れることを「斜め取り」といいます。
「額取り」は「枡取り」「菱取り」など、風呂敷の外枠の色を変えるスタイルです。
「正羽取り」は「立正羽取り」「小巾右付け」「のし目取り」など、ラインが風呂敷の端から端まで真っ直ぐに走っているものです。
「丸取り」は、風呂敷の中央に円形の柄が入っているものです。
「四方にらみ」は、中央から放射線状に同じ形の柄が入っているものです。
「絵画」の様に描くものもあります。
新たな風呂敷デザイン:
近年では、非常に多様で斬新なデザインも用いられ、オーダーメイドで指定された写真やデザインを基にプリントするオリジナル風呂敷もあります。
また、風呂敷の包むという原理を靴に応用した製品もあります。
風呂敷 & 環境への影響:
Furoshiki & Environmental Impact
風呂敷 & 環境への影響
昨今、風呂敷はエコグッズとして注目されています。
買い物時に使うレジ袋は、ポリオレフィン等の材質で作られており、環境への悪影響が懸念されています。年間、6千万~1億バレルの石油がプラスチックバッグ製造に費やされており、レジ袋を使わないことで、石油を節約できます。
ポリオレフィンを焼却処分すると、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)が排出されます。レジ袋を使わなければ、排出される二酸化炭素の量も削減できます。
自然を破壊するプラスチック:
年間5千億~3兆枚のプラスチックバックが世界で流通しており、消費者の3人に1人が不要になると投棄しています。問題をより深刻にしているのは、ビニールが半永久的に自然界に残る点で、貴重な自然生物が誤飲し死亡し、ドミノ崩しの様に、生態系に次々と影響を与えていきます。
プラスチックは人にも影響:
プラスチックにより毒素がフードチェーンに入り、その食物連鎖の頂点に位置付けられている人間にも影響を及ぼしています。環境意識の高まりから、レジ袋の禁止や課税や自制などの処置がとられるようになってきています。
見直される風呂敷:
そこで改めて注目されているのが風呂敷です。風呂敷は、楽しく創造力を刺激し、人々がエコな思想を育むことにもつながります。手を動かして創造的な体験で脳に働きかけるのです。
風呂敷でエコフレンドリーになった人々は、生活のありとあらゆる場面で環境にやさしい行いをするようになり、やがては施政や社会全体をも変えてゆく力につながるのです。
ツールとしての風呂敷プラットフォーム:
Furoshiki Platform as Tool
ツールとしての風呂敷プラットフォーム
風呂敷は、どんな形であっても包んで持ち運ぶことが出来ます。この特徴をタブレットやスマホのプラットフォームとの比較という視点から見てみます。
風呂敷は、布という最小限のハードウェアがあり、使い方の知恵というソフトウェアによって活用することが出来ます。
アナログの時代は、ラジオはラジオとして作られラジオとしてのみ機能しました。
一方、タブレットという四角く薄いコンピューターは、ソフトウェアにより、一つの機器で複数の役割を果たすことが出来ます。
アプリケーションをインストールすることで、インターネット通話も出来ますし、ビデオゲームを楽しむことも出来て、他にも様々な機能を持たせることが出来ます。最低限のハードウェアにソフトウェアを入れ、多種多様な役割を果たします。
スマートな風呂敷:
この特徴は風呂敷と非常に似ています。コンピューターのアプリケーションは、風呂敷の場合「人がその使い方を学習すること」です。
用途に合わせて10個も20個もツールを持ち歩く必要はなく、知恵というソフト次第で、風呂敷という一つのプラットフォームが、様々なツールに早変わりし、折りたためばスマホ程度のサイズでコンパクトです。
1200年以上前から存在する風呂敷ですが、ハイテク機器のタブレットのような先進的な特徴を備えています。
風呂敷 & 日本:
Furoshiki & Japan
風呂敷 & 日本
風呂敷は日本を体現する文化です。日本には他にも風呂敷と関連する文化があります。
袱紗(ふくさ):
袱紗のルーツは風呂敷です。進物を包み礼節や心遣いを表し、非常に日本的です。風呂敷でモノを包み贈呈する際にも、贈る側の気持ちを伝える意味があります。
小さな寸法のものは、帛紗(ふくさ)と書きます。冠婚葬祭の熨斗袋を袱紗で包む際は、葬儀などの弔事には左前に包み、結婚式などの慶事には右前に包みます。風呂敷でモノを包む際にも、同様です。
風呂敷を袱紗の代わりとすることもあり、両者に厳密な違いは分かりづらいですが、一般的に日常生活で使うものを風呂敷と呼び、儀礼などの際に金品を包むのが袱紗とされます。
袱紗は茶道の道具としても用いられ、小物を入れ携行する袋を袱紗挟み(帛紗挟み)と呼び、道具には袱紗、また袱紗よりさらに小さい古袱紗(小袱紗)などがあります。
折り紙:
日本独自の文化である折り紙も風呂敷同様に正方形で、1枚の紙を折って様々なものをつくります。
着物:
風呂敷と同じく、日本を代表する布の文化に着物があります。日本の伝統衣装である和服は、風呂敷と似た特徴があります。
洋服が立体的に縫製されるのに対して、着物は平面的に縫製されます。風呂敷も平面的な布です。
着物を作る際は、反物の四角い生地を最大限に生かし、直線裁ちしますので、無駄になる生地は、ほとんどありません。和裁にはモノを無駄にしないという精神があります。
洋服は体型にカスタマイズして作りますが、着物は一つあれば、幅広い体型に対応できます。
浴衣も基本的に同様の発想で着物よりさらに簡素化されて作られます。
平面的で、幅広く使うことが出来て、無駄がない着物は、風呂敷と共通の特徴を有し、実に日本的です。
漫画:
日本の社会に根付く風呂敷は、同じく日本の文化である漫画にも登場します。
SF漫画『ドラえもん』のアイテムに「タイムふろしき」があります。
また、日本の漫画に登場する典型的な泥棒は、唐草模様の大風呂敷を背負っています。泥棒稼業という肝心な場面で風呂敷が登場するのは、風呂敷の機能性の高さの裏付けです。
比喩:「大風呂敷を広げる」
大風呂敷は、広げた時の寸法が大きく、そのような大きいものを包むことは滅多にありません。
そこで、実際には実現が難しいような壮大な計画、内容が乏しいのに外見だけは大げさなこと、誇張した話などを例えて「大風呂敷を広げる」と言うようになりました。
勿体ない精神:
風呂敷は、無駄をなくし環境にやさしいものです。何かが無駄になっていると感じた時、日本では「もったいない」と言います。
まんが日本昔話シリーズのコマーシャルでは、食べ残された大根や人参が「もったいないお化け」となり、枕元に現れます。「勿体ない」というのは「本来あるべきものがない」という日本古来の哲学的な言葉です。「勿体ない精神」は、日本に古来より伝わる哲学です。
風呂敷の使い方:
How to Use Furoshiki
風呂敷の使い方(←更なる動画はこちら)
こちらでは、簡単でお洒落で便利な風呂敷の使い方を厳選し、分かりやすく動画に解説を入れて紹介します。
この「しずくバッグ」は、ちょっとお出掛けする際の用途に便利です。「一つ結び」の結び目を内側にすると、丸いしずくの形状の袋になります。
結び目を外側にすると袋の外側のミミがアクセントの「しずく流水バッグ」になりになります。
袋の口を閉じると、お出掛けの際にオシャレな「ポーチ」に早変わりします。
風呂敷の現在と将来:
Furoshiki Today & Future
風呂敷の現在と将来
日本では、欧米化や近代化で廃れてしまった風呂敷ですが、近年は環境対策が奨励されており、風呂敷が注目されています。このエコフレンドリーの流れは、世界的なものであり、風呂敷は、世界中に普及するポテンシャルがあります。
世界での風呂敷:
世界に目を向けると、風呂敷は一部で注目されていますが、利用している人は、ほとんどいません。
一方、寿司という言葉は、世界中で誰もが知る日本語です。風呂敷は、認知度で水をあけられていますが、寿司と同じくらい価値のある日本の伝統文化です。
エコバッグとしての風呂敷:
エコバッグとしての風呂敷は、簡単に使い方を学ぶ必要があり、地道な普及活動が必要です。風呂敷の事を知らない人であれば、一見かなり斬新なデザインのバッグに見えるはずです。何かの切っ掛けでファッションアイテムとして流行することも考えられます。
日本の風呂敷は、包むことや運ぶことに特化する一方で、他の用途は、ほとんどなくなってゆきました。
風呂敷用途の提案:
世界中への普及を目指す上で、包む文化を伝えると同時に、各地の習慣や布文化を理解し、現地に馴染むような提案をしてゆくのが賢明ではないでしょうか。
多種多様な布文化と融合して発展し、日本の内外で、多くの人々に受け入れられるように変化し、躍動する風呂敷の雄姿を目にしたいものです。
Furoshiki x
風呂敷 x
何かと何かを掛け合わせた時に化学反応を起こし、新しいものが生まれることがあります。様々なものと風呂敷を合わせて論じてゆきたいと思います。
風呂敷 x スペイン:
Furoshiki x Spain
風呂敷 x スペイン
こちらでは、いまだかつてない「風呂敷 x スペイン」という切り口でざっくばらんに論じます。
著者:長田拓也 Takuya Nagata. Amazon Profile
Follow @nagatackle小説作家、クリエーター。英国立大学UCAを卒業。卒業論文では、日本のミニマリズムについて論じた。エコロジーやライフスタイル等、社会の発展に寄与するアート・ムーブメント『MINIЯISM』(ミニリズム)の創設者。欧州各地でライターとして様々な分野で活動し、後にナレッジハブ「The Minimalist」(ザ・ミニマリスト)をローンチ。
かつてブラジルへサッカー留学し、リオデジャネイロにあるCFZ do Rio(Centro de Futebol Zico Sociedade Esportiva)でトレーニングに打ち込む。日本屈指のフットボールクラブ、浦和レッズ(浦和レッドダイヤモンズ)でサッカーを志し、欧州遠征。若くして引退し、単身イングランドに渡った。スペイン等、欧州各地でジャーナリスト、フットボールコーチ、コンサルタント等、キャリアを積む。クリエーティヴ系やテクノロジー畑にも通じる。ダイバーシティと平等な社会参加の精神を促進する世界初のコンペティティヴな混合フットボール「プロプルシヴ・フットボール」(プロボール)の創設者。
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参考:
国立民族学博物館(日本)、特別展:世界大風呂敷展 布で包む ものと心